ニート探偵の本と、あと何か、別の本に引用があったのでそろそろ買い時かと思って購入。
この本の、というか物語の存在自体は10年近く前から知っており、あまりのメジャーさと名作感から手を出せずにいました。同じ作者の「愛はさだめ、さだめは死 」で文体が会わないなと思っていたのも言い訳です。
ともかく漸く読んだこの本。実にすばらしいSFです。
まずは題名ですね。私が産まれた頃に翻訳され、多くの人を引きつけ、引用せしめた要因の一つがこの題名でしょう。
彼女、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアは本当にセンスに恵まれた方です。センス・オブ・ワンダーに。
「たった一つの冴えたやり方」「愛はさだめ、さだめは死 」、「故郷から10000光年」、「輝くもの天より墜ち 」
題名だけ見てもセンス・オブ・ワンダーがあふれている感じがします。そしてその感じはおそらくは正解なのでしょう。
ただ、時折センスの濃さ故に肌に合わないということもあるようですね。
いくつかの本の解説で彼女の破天荒さというかぶっ飛んだ生い立ちが言及されています。曰く、幼い頃アフリカに行ったとか。まあ、それが中心ですが。どうやら幼い頃のティプトリーはたいそう美少女だったそうで。美少女作家ハァハァ
ってのが嫌で男を名乗ったのでしょうか。
確かに愛はさだめ収録の短編なんかは非常に男臭いというか下手すると女性差別的ともいえるマチズモであります。アリスたんは巨根のフタナリとかいうと怒られそうですが男だよ、といわれれば納得できる文章ですね。
ただ、本人が公表するまでたびたび「ティプトリーは男か?女か?」という議論がファンの間でなされた所を見るに粋すぎた男根主義はかえって不自然だったのかも知れませんが。SFマガジンの聞きかじりくらいの知識しかないのでここらにしておきます。
で、たった一つの冴えたやり方、原題は「the Starry rift」。三葉の中編の挿物語と枠物語からなる長編です。それぞれの挿物語は「リフト」と呼ばれる星の途切れたところとその縁に作られた連邦基地900という辺境の基地を舞台とした物語です。
時代は人類(ヒューマン)と50種族の星間連合である「五十種族連邦」が銀河をせっせと開拓してた時代。まだ超光速航行はなく超光速通信すらも限定的な時代です。
表題のたった一つの冴えたやり方は劇中に登場するかつての開拓時代の英雄の台詞であり、一個目の挿物語。少女とエイリアンの楽しくも悲しいファーストコンタクト。
私が気に入ったのは三つめの挿物語である衝突。お互いに存在を知らなかった大国同士のファーストコンタクトは最悪の形でなろうとしてた。というもの。
リフトのこちら(人類)側には連邦に匹敵する国は無かったのでしょうね。
この衝突は人類と相手側、双方の視点から描かれており、また下手をすると壮絶な戦争が起こってしまうという緊張感もあり非常に面白い作品でした。
やっぱりティプトリーは天才だな。いや、天才というかセンス・オブ・ワンダーの固まりかも知れません。
ティプトリーの元ネタはジャムだそうです。たぶんセンス・オブ・ワンダーのジャムですよ。